タラヲ「わーい! ボクも『能力』に覚醒したデース!」

1 : 2020/10/03(土) 12:45:03.571 ID:+dHMxRzWd
マスオ「ええーっ!!!本当なのかいタラちゃん!?」

タラヲ「はいデース!」バチバチバチッ

マスオ「うひゃー!!こりゃすごい電撃だ!!」

            <Index>
サザエ「タラちゃん、もう『能力名』は分かったの?」

タラヲ「もちろんデスぅ!」

        <Biblio>          <The Lights in the Sky Are Stars>
タラヲ「そう、我が『能力』の名は―――――   『僭主に阿る雷霆』   」

2 : 2020/10/03(土) 12:45:38.425 ID:+dHMxRzWd
           <Biblio>
フネ「おやタラちゃん、『能力』に目覚めたのかい?」トプン

サザエ「いやだ母さんったら、いきなり影から出てこないでくださいよー」

タラヲ「おばーちゃーん!」

フネ「なんだいタラちゃん?」

タラヲ「殺るデース!」バリバリバリバリッ

フネ「ふふふ、まだまだ甘いね」シュン

タラヲ「――――ッ!!?」

3 : 2020/10/03(土) 12:46:10.209 ID:+dHMxRzWd
          <20,000 Leagues Under the Sea>
マスオ「流石、母さんの   『幽世に揺蕩う曳船』   は一味違うねぇ」

サザエ「力押しだけじゃ、ディラックの深淵は攻略できないわよ~」

タラヲ「むぐぐ……ッ!!」

フネ「タラちゃん、よくお聞きなさい」

フネ「私の『幽世に揺蕩う曳船』は、肉体の対消滅と対生成によって量子の海を自由に移動する能力なのよ」

タラヲ「ズルいデスぅ!」

フネ「ふふふ、それだけじゃないのよ」ギューーーン

タラヲ「ッ!!?」チュドーーーン

4 : 2020/10/03(土) 12:46:48.260 ID:+dHMxRzWd
マスオ「ええーーっ!! 反物質砲はやり過ぎなんじゃないかい!?」

フネ「大丈夫ですよマスオさん」

タラヲ「む、無念デス……」バタリ

フネ「ライデンフロスト効果を加味しても、ほとんど大気中で対消滅したからね」

フネ「気絶しただけで大事には至っていないよ」

サザエ(この手際の良さ……母さんだけは敵に回したくないわね)

5 : 2020/10/03(土) 12:47:20.589 ID:+dHMxRzWd
波平「ほう、そうかそうか」

サザエ「いきなり母さんに挑みかかるもんだから、びっくりしちゃったわよ」

マスオ「覚醒したては精神が不安定になるからねぇ、仕方が無いよ」

フネ「そうですよサザエ、あなたが覚醒したときなんて……」

サザエ「か、母さん……!」

6 : 2020/10/03(土) 12:47:59.821 ID:+dHMxRzWd
カツオ「ごちそうさま」

ワカメ「あれ、お兄ちゃんもう?」

カツオ「部屋に戻る」

タラヲ「カツオお兄ちゃん、逃げるデスかぁ?」

カツオ「……………」バタン

ワカメ「ちょっと、タラちゃん……」

マスオ「確かに、うちで『能力』に覚醒していないのはもうカツオ君だけだからねえ」

波平「下らん、素質はあるのにそれを磨こうとせんからいかんのじゃ」

ワカメ「お兄ちゃん……」

カツオ「………ついにタラちゃんまで覚醒しちゃったか」

カツオ「また、止められないのかな」

7 : 2020/10/03(土) 12:48:17.273 ID:HIR3WuO80
まだ続きそう?
8 : 2020/10/03(土) 12:48:32.258 ID:+dHMxRzWd
【学校】

中島「磯野ー、放課後野球しようぜー」

カツオ「中島、ゴメン……今日は用事があって」

花沢「あら磯野君、そんな暗い顔してどうしたのよ」

カツオ「花沢さんまで……」

カツオ「二人とも本当にゴメン」

カツオ「………ありがとう」

中島・花沢「?」

9 : 2020/10/03(土) 12:49:08.677 ID:+dHMxRzWd
【磯野家】

カツオ「ただいまー」

カツオ「………やっぱり、家には誰もいないか」

カツオ「なら、一番最初に動き出すのはきっと」

ドンッドンッ

三郎「ちわーッス、三河屋でーす」

10 : 2020/10/03(土) 12:49:55.201 ID:+dHMxRzWd
三郎「サザエさ……っと、どうしたんだいカツオ君?」

カツオ「三河屋さん」

カツオ「お願いだから、このまま何も言わずに帰って欲しいんだ」

三郎「一体何の話だいカツオ君、そういえば今日はサザエさん達が……」

カツオ「家には僕一人だよ、三郎さんも知ってるくせに」

11 : 2020/10/03(土) 12:50:27.498 ID:+dHMxRzWd
三郎「へぇ………じゃあ、カツオ君はどこまで『知っている』のかな?」

突如として三郎の右腕が3倍程の太さまで膨れ上がる。

表面に這う血管は鼓動と共に蠢動し、不気味に赤黒く変色した皮膚からは陽炎が立ち上っていた。

奇妙で醜悪な肉塊と化した右腕の狙いを目の前の少年に定め、弓を引き絞る様に体が捩られた。

刹那、裂帛を纏う剛腕が、カツオの肉体を粉砕せんと肉薄する。

―――だが。

カツオ「『識っている』さ、何もかもね!」

三郎「―――ッ!!?」

指弾の間、カツオは既に三郎の背後へと回っていた。

58 : 2020/10/03(土) 13:09:47.790 ID:EntFNrZF0
>>11
識っている←これすこ
12 : 2020/10/03(土) 12:51:19.805 ID:+dHMxRzWd
三郎「馬鹿な、情報では貴様はまだ『覚醒者』では……ッ!!」

言葉を待たずしてカツオの拳が放たれる。

肉薄した体勢から放たれたボディブローは、相手が常人であれば一撃で意識を刈り取る程の威力を孕んでいた。

                  <Biblio>   <The Stolen Bacillus>
しかし、人外の反応速度で三郎は自らの『能力』である『愚者が囀る晩餐』を再発動。

腹部の細胞が異常増殖し、服を突き破ってキチン質の防御甲殻を纏う。

三郎「残念だったねカツオ君!!肉弾戦で僕に勝とうだなんて」

紡がれた嘲笑の言葉は、全てを言い終える前に中断させられた。

                      
脇腹を捉えた拳が着弾すると共に、全身余すところなく拳の威力が注がれる。

カツオ「―――残念だよ、三河屋さん」

断末魔の悲鳴と共に、紅と蒼の血を吹き出しながら、全身を砕かれ奇妙なオブジェのように歪んだ三郎の肉体は、

磯野家の勝手口から裏庭の塀まで吹き飛ばされた。

13 : 2020/10/03(土) 12:51:22.735 ID:2ujd4VATa
ちょっとおもしろい
14 : 2020/10/03(土) 12:51:56.168 ID:+dHMxRzWd
カツオ「………ついに始まってしまった、終わりの時が」

そこには勝利の余韻など無く、ただ韜晦の中に護り続けた平穏が消え去ったことに対する寂寥感だけが、

寒風の如く心中で吹き荒ぶのみであった。

カツオ「みんな……どうか無事で」

15 : 2020/10/03(土) 12:52:32.735 ID:+dHMxRzWd
【商店街からの帰り道】

ワカメ「お姉ちゃん、今日の晩ご飯は何?」

サザエ「うふふ、買ってきた食材から当てられるかしら」

ワカメ「あ、あの人」

サザエ「あらまあ、甚六さんじゃないですか」

甚六「……お……の……」

サザエ「………甚六さん?」

甚六「………まえら…………いで………」

ワカメ「お、お姉ちゃん……」

サザエ「待って、様子がおかしいわ」

甚六「お前らのせいで……俺はッ……俺はアアアァァァァァァッ!!!!」

16 : 2020/10/03(土) 12:53:06.722 ID:+dHMxRzWd
【町内会からの帰り道】

かる「ほら、あの時のおフネちゃんってば」

フネ「ふふふ、そんな懐かしい話もあったわねぇ」

かる「ええ、本当に懐かしいわ」

フネ「……おかるちゃん?」

かる「―――――もう、あの頃には戻れないのね」

17 : 2020/10/03(土) 12:53:35.723 ID:oBqzoFPy0
見てるぞ
18 : 2020/10/03(土) 12:53:38.024 ID:+dHMxRzWd
【伊佐坂邸】

伊佐坂「………」パチン

波平「あ、いや……これは手厳しい」

波平「むむむ」

伊佐坂「波平さん」

波平「なんですか?」

伊佐坂「次の一手は早くした方がいいですよ」

伊佐坂「なにせ、もう時間が無いですから」

19 : 2020/10/03(土) 12:54:10.179 ID:+dHMxRzWd
ドゴオォォォオオオッ!!!!

波平「な、なんじゃさっきの音は!?」

波平「今さっき、儂の家の方から聞こえてきたような……」

伊佐坂「やれやれ、三郎君も派手にやりますね」

波平「伊佐坂先生……どういうことですかな」

伊佐坂「―――――こういうことですよ」

20 : 2020/10/03(土) 12:54:45.366 ID:+dHMxRzWd
【公園】

イクラ「ハーイ」

タラヲ「イクラちゃん、どうしたデスか?」

イクラ「バーブ」

タラヲ「いい加減にするデス」

タラヲ「ハーイやバーブで分かるワケないデスよこの池沼」

タラヲ「これだから知恵遅れの相手は……」

イクラ「調子に乗り過ぎだ、タラヲ」

タラヲ「ッ!?」

次の瞬間、イクラの体を激しい光が包み、そして燃え上がった。

焼け落ちた服の下から現れたのは、プラズマの輝きと公園を舐めつくす熱波。

タラヲ「イ、イクラちゃん……まさか!!」

イクラ「そうだよタラヲ、これが俺の本当の姿」

        <Biblio>        <The Naked Sun>
イクラ「そして俺の『能力』――――『供犠焼べ斎戒為す聖壇』だ」

21 : 2020/10/03(土) 12:54:58.723 ID:2ujd4VATa
タラオ頼むイクラだけは無惨に殺してくれ堀北君には手を出すなよ
22 : 2020/10/03(土) 12:55:16.313 ID:+dHMxRzWd
【とある裏路地】

マスオ「それでどこにあるんだい、アナゴ君おすすめの店ってのは」

アナゴ「………」

マスオ「………アナゴ君?」

アナゴ「騙して悪かったね、フグ田君」

アナゴ「君が行くのは隠れ家的な飲み屋なんかじゃあない」

アナゴ「地獄、さ」

23 : 2020/10/03(土) 12:55:52.437 ID:+dHMxRzWd
マスオ「そうか……いつかこんなことになる気はしてたんだ」

アナゴ「おやおや、いつから気づいていたんだい?」

マスオ「カツオ君は、僕にだけは打ち明けてくれていたからねえ」

アナゴ「ふふん、君にしてはやけに無警戒についてくると思ったよ」

マスオ「――――だって、君に任せれば他人を巻き込まない場所を選んでくれるだろう?」

アナゴ「――――解ったような口をきくじゃあないか、フゥゥゥグ田くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!」

24 : 2020/10/03(土) 12:55:54.030 ID:m3oKJxHm0
とっ散らかってきたな
25 : 2020/10/03(土) 12:56:28.632 ID:+dHMxRzWd
【商店街からの帰り道】

甚六「お前ら、お前ら、お前らァァァァァアアアッ!!!」

頭を掻き毟り髪の毛を引き千切りながら、血走った目を見開き口角から泡を飛ばして叫ぶ甚六。

その足元のアスファルトはひび割れ、足に面した部分では砂を通り越し微粒子となって宙を舞う。

周囲のブロック塀や電柱にもひびが入り、街の一角がまるで見捨てられたゴーストタウンのように劣化してゆく。

                 <Librarian>
サザエ「甚六さん、まさかアナタも『覚醒者』!?」

甚六「ああ……そうさ」

弛緩したようにだらしなく腕を下ろした姿は生気に乏しく、まるで幽鬼のごとく見られた。

ただその内に秘める憎悪と憤怒、そして殺意が圧力となりどうしようもなくその存在を認めさせる。

26 : 2020/10/03(土) 12:56:43.489 ID:x8lDw3aca
転載許可します
27 : 2020/10/03(土) 12:57:01.796 ID:+dHMxRzWd
             <Humiliated and Insulted>                               <Biblio>
甚六「俺の……いや、僕の 『鬱屈と焦燥の歪力』 は対象の精神的ストレスを機械的ストレスに変換する『能力』だ」

甚六「だからさぁ……『あの方』の言う通りにずっと浪人として、蔑みと憐みの視線に晒されて、無力感に蝕まれて」

甚六「きたる日のために……ずっと、ずっと、ずうぅぅぅぅぅぅっと!!!!!」

再び叫び声をあげると同時に放たれた黒い稲光のようなチカラの奔流が、道路の舗装を裂きながら二人へと襲い掛かる。

ワカメ「お姉ちゃん、危ない!!」

迫りくるチカラに向けてワカメが両手をかざした瞬間、地面が凍結し無数の霜柱がアスファルトを突き破り生えた。

機械的ストレスそのものに噛み砕かれ粉雪と舞い散りながら、その威力を減殺。

稼いだ時間の内にサザエが飛び退いた軌道上に、遅れて破壊の波濤が押し寄せる。

28 : 2020/10/03(土) 12:57:39.010 ID:+dHMxRzWd
サザエ「助かったわワカメ、サンキュー」

ワカメ「どういたしまして、でも甚六さんの『能力』……」

サザエ「ええ、かなり厄介ね」

       <The Cold Equations>
ワカメ「わたしの『聳える峻拒の薄氷』では直接対処できないし……」

      <The Winds of Change>
サザエ「わたしの 『皇女に傅く絶息』 の有効射程内に捉えるのにも一苦労しそうね」

冷や汗が一筋、サザエの額を滑り落ちた。

その姿を見た甚六が、狂ったように嗤う。

29 : 2020/10/03(土) 12:57:39.042 ID:IEZJHWCb0
若本さんは音速丸以降完全にぶるぁぁぁの人にされちゃったな
30 : 2020/10/03(土) 12:58:11.191 ID:+dHMxRzWd
甚六「くふ、くふふ、ふははははははははははは!!!!」

甚六「最高じゃないか、この威力、この破壊力!!!」

甚六「溜め込んだストレスを直接発散できるんだ、こんなに気持ちいいことはない!!!!」

甚六「でぇもぉ――――まぁぁだぜぇぇぇんぜん足りねぇぇぇぇぇええええっ!!!!!」

甚六が一歩を踏み出す度に、その足元に吐き出された破壊によって地面が灰塵と化す。

その姿は獲物を見出した狩人か、地獄へ連立つ仲間を見つけた亡者か。

或いはもっと冒涜的でおぞましい何かにさえ見えた

31 : 2020/10/03(土) 12:58:31.522 ID:oBqzoFPy0
タラヲは死にそう
32 : 2020/10/03(土) 12:58:35.662 ID:2ujd4VATa
黒幕はノリスケか…
33 : 2020/10/03(土) 12:58:44.157 ID:+dHMxRzWd
【町内会からの帰り道】

かる「無駄な抵抗はしないで、楽に終わらせてあげるから」

フネ「くうっ……お、おかるちゃん……」

寂しげな瞳の中に闇を湛えて、かるは無慈悲に先手の攻撃を放つ。

老体には耐え難い重圧によって、フネの体は地面へと叩き付けられた。

全身が軋む音と共に、砕けたアスファルトの中に体が埋まる。

34 : 2020/10/03(土) 12:59:18.873 ID:+dHMxRzWd
【伊佐坂邸】

伊佐坂「あなたも私も老いた」

伊佐坂「だからこそ、不意打ちという姑息な手が有効打と成り得たのですよ」

波平「伊佐坂先生、あんた……」

伊佐坂の手にした自らの著作から、半透明に輝く文字列が流れ出す。

光の帯と化した物語を纏い、かざした左手の先には、片膝を突く波平の姿があった。

既に疑問の声を上げることすら難しいようで、軒先の床板を軋ませながら、

俄には信じがたい現状を冷静に理解し、打開策を探る、圧倒的に不利な硬直状態。

頭上より降りかかる重圧は刻一刻と重みを増してゆく。

35 : 2020/10/03(土) 12:59:50.331 ID:+dHMxRzWd
伊佐坂・かる「「私たちは似た者夫婦でね」」

                 フネさん
伊佐坂・かる「「きっと今頃、      も同じ苦しみを味わっている頃ですよ」」
                 波平さん

36 : 2020/10/03(土) 13:00:23.043 ID:+dHMxRzWd
【公園】

タラヲ「喰らうデスッ!!」

鉄棒、雲梯、ジャングルジム。

公園に設置されたあらゆる金属が紫電を纏い、地面から引き千切られ、イクラへと襲い掛かる。

タラヲの『僭主に阿る雷霆』の圧倒的電力によって生み出された、超磁力による暴力だ。

――――だが。

イクラ「どうした、その程度か?」

鋼鉄が、触れた瞬間に蒸発する。

『供犠焼べ斎戒為す聖壇』により、プラズマ生命体として再構築されたイクラの肉体は、

ただ佇むだけで巨大質量による攻撃を無効化する。

紅く輝く顔が失望に、次いで嘲笑に歪む。

イクラ「がっかりだよタラヲ……あの磯野とフグ田の混血児が、この程度なのか?」

37 : 2020/10/03(土) 13:01:02.392 ID:+dHMxRzWd
タラヲ「まだまだデスうううううっ!!」

挑発の言葉に応えて、タラヲが咆える。

砂場や地面の砂鉄が磁力によって浮かび上がり、二本一組の線となって空中に固定される。

その上に残る鉄骨が砲弾として装填された。

砂鉄のレールに莫大な電力が供給され、鉄骨が巨大なローレンツ力によって加速される。

電気抵抗により発生したジュール熱でレールをプラズマ化させながら、巨大質量が超々音速で飛翔する。

都市を賄える程の電力によってのみ実用化されるこの兵器は、レールガンと呼ばれる。

タラヲ「これだけじゃ無いデスよおおおおおおっ!!」

タラヲの背中から、光輪が生まれた。

それは輝きを一層強めながら空へ向かって拡大、その巨大さと光量を以って宵闇に呑まれんとする街を昼へと引き戻す。

その正体は『僭主に阿る雷霆』の磁場操作によって生み出された、全周30kmに及ぶ不可視の粒子加速器である。

抽出された微量重金属元素をイオン化し、亜光速まで加速し投射する、荷電粒子砲として使用されるために生み出されたものであった。

タラヲ「消し飛べデスううううううううううっ!!」

38 : 2020/10/03(土) 13:01:41.371 ID:+dHMxRzWd
先ほどの重力に任せた攻撃とは比較にならない、膨大な運動エネルギーを孕んだ2種類の砲撃が、回避軌道を全て潰し、

イクラのプラズマの肉体を容赦なく噛み砕かんと襲い来る。

その射線上の町並みをイクラごと消し飛ばしてしまうような威力を、残酷で無邪気な笑みのまま、逡巡も無く振り回す。

それに対してイクラのとった行動は、ただ右手をかざす、それだけだった。

着弾の瞬間、公園の敷地全体が爆炎と衝撃波に蹂躙され、余波を食らった近隣の家々までが吹き飛ばされる。

壊滅した町の一区画はまるで世紀末の様相であった。

――――だが。

イクラ「これ以上俺を失望させるなよ……タラヲ」

またしても、無傷。

イクラ「俺の体はただのプラズマではない……超々高密度プラズマだ」

イクラ「俺の体が孕む熱量と圧力はあらゆる物質を破壊し、あらゆるエネルギーを相56する」

イクラ「運動エネルギー、電気エネルギー、低温高温、電磁波に放射線、なんでも試してみるといい」

イクラ「完全な生物であるこの俺には、その全てが防御にも値しない程度の攻撃だ」

39 : 2020/10/03(土) 13:02:18.391 ID:+dHMxRzWd
その事実に然しものタラヲも声を失う。

失望をプラズマの灼眼に湛えたまま、茫然自失とするタラヲにイクラが歩を進める。

タラヲはこの時初めて理解した、恐怖という感情を。

自分がいかに幼く無力な存在であるかを噛みしめた。

タラヲのズボンが恐怖に濡れる、肌を焼く熱波を浴びてなお怖気に全身が震える。

タラヲ「イクラちゃん……ボクたち、友だちデスよね……?」

絞り出せた言葉は、それだけだった。

それを聞いたイクラの表情から感情が失せる。

イクラ「最期の言葉がそんなくだらない命乞いだとはな」

イクラ「――――残念だよタラヲ、さよならだ」

触れるだけで全てを破壊する灼熱の腕が、タラヲの胸を貫く。

断末魔を上げるヒマさえなく、タラヲの全身が燃え上がった。

その瞬間にさえ、イクラは眉ひとつ動かすことは無かった。

40 : 2020/10/03(土) 13:02:59.788 ID:lgH0+TgS0
同時進行展開で引き延ばされる漫画を読んでいるようだからちくしょう
41 : 2020/10/03(土) 13:03:08.261 ID:huZW4lHHd
神スレか?
42 : 2020/10/03(土) 13:03:11.123 ID:oBqzoFPy0
よし
43 : 2020/10/03(土) 13:03:21.991 ID:+dHMxRzWd
【とある裏路地】

アナゴは、スーツのポケットに両手を突っ込んだまま不動。

自然体ながら、その鋭い眼光はマスオの一挙手一投足を捉え、僅かな隙を見せることさえ許さない。

だが、それはマスオの側も同じだった。

マスオ「………仕掛けてこないのかい?」

安い挑発を打つ。

その言葉に口角を歪め、アナゴは嘲笑を答えとする。

マスオ「何が可笑しいんだい?」

アナゴ「ふっふぅー、マスオ君こそ何をいっているんだか」

アナゴ「――――もうとっくの昔に仕掛けているよ」

44 : 2020/10/03(土) 13:03:34.581 ID:7YTnK/BJa
群像劇でワロタ
45 : 2020/10/03(土) 13:03:55.809 ID:+dHMxRzWd
脊椎に氷柱を挿し込まれたような悪寒。

怖気を振り払うかのように先に動いたのはマスオだった。

振り被る時間すら惜しく、押し出すように構えた左の掌をアナゴに向け、刹那。

宵闇の帳が降り始めた空に腕が舞う。

マスオのものだった。

マスオ「うぐっ!!」

肩口から両断された左腕は、振り上げたベクトルを保持しながら冗談のように虚空に踊る。

反射的に傷口を右手で抑えながら、生まれた隙を取り繕うようにアナゴを睨みつける。

46 : 2020/10/03(土) 13:04:40.839 ID:+dHMxRzWd
アナゴ「ずいぶんと詰まらない展開じゃあないか、マスオ君」

     <A Descent into the Maelstrom>
アナゴ「私の    『遍く虚空の簒奪者』    は、まだ1割のチカラも発揮していないんだよ?」

瞳を失望の色に染め、批判するように言葉をぶつける。

アナゴ「道化を演じるのも大概にしたまえ」

アナゴ「そんな猿芝居で、わたしを騙し果せるとでも本気で思っているのかい、君は」

47 : 2020/10/03(土) 13:04:56.076 ID:oBqzoFPy0
磯野家弱いな
48 : 2020/10/03(土) 13:05:10.404 ID:ZFy1zJUv0
親の前で音読して欲しい
49 : 2020/10/03(土) 13:05:13.126 ID:+dHMxRzWd
その言葉に、マスオの唇が苦悶に引締められたモノから、自嘲的な笑みへと変わる。

マスオ「まいったな……少しぐらい油断してくれたっていいじゃないか」

アナゴ「油断も何も、その左腕は最初から義手だろう?」

マスオ「バレていたんなら仕方がないや」

やれやれとかぶりを振りながら、左肩を押える右手に力を込める。

金属が拉げる音を立て、肩口に接続された機械式義手の残滓を吹き飛ばしながら、闇が噴出する。

それは闇と言うにはあまりにも深く、暗く、そして澱みのない、限りなく透明に近い黒だった。

漆黒でもなく、闇色でもない、敢えて表現すれば、そう。

――――『夜色』に染め上げられた腕であった。

50 : 2020/10/03(土) 13:05:53.744 ID:+dHMxRzWd
    <The Left Hand of Darkness>
マスオ「この   『凋落と禍殃の腕』   を見せるのは、君で3人目だ」

アナゴ「『生きている中では』だろう?」

予定調和のように重ねられた言葉は、闇夜に追い立てられる黄昏色と共に、地平線の彼方へと溶けて消えた。

51 : 2020/10/03(土) 13:06:00.235 ID:FfSYlhKQK
VIPで地の文って初めて見た気がする
52 : 2020/10/03(土) 13:06:26.803 ID:+dHMxRzWd
【商店街からの帰り道】

サザエ「いくわよワカメ!」

ワカメ「任せてお姉ちゃん!!」

サザエが掲げた腕に、大気が渦を巻いて押し寄せる。

更にワカメが手を翳すことで、分離された大量の窒素が冷却され、液化する。

凝縮された圧力を一点だけ解放することで、液体窒素の吹雪が高圧で吹き荒れた。

<The Winds of Change>        <The Cold Equations>
  『皇女に傅く絶息』  による大気操作と『聳える峻拒の薄氷』による冷却の複合攻撃である。

甚六「喰らわねえよ、バアアアアアアアカッ!!!」

致死の攻撃にも怯えず、甚六は血走った眼を見開き、道化のように顔を歪める。

犬のように伸びた舌が顎を超えて垂れ下がり、興奮に溜まった唾が叫びと共に吐き出される。

液体窒素の飛沫も、凍結した水蒸気の刃も、それを吹き付ける圧力そのものまで『鬱屈と焦燥の歪力』に噛み砕かれてゆく。

全ての分子結合、全てのエネルギーの結束さえも粉々に挽き潰し、低温も高圧も甚六に届くことは無かった。

だが、それは二人にしても計算通りに過ぎない。

53 : 2020/10/03(土) 13:07:04.876 ID:+dHMxRzWd
生まれた隙に、足元に空気を吹き付けた反動でサザエが浮かび上がり、背後に大気を吐き出すことで高速で突撃する。

ワカメも路面を凍結させ、氷の刃を履いて踊る様に滑走する。

左右からの挟撃に、甚六が迎撃の攻撃を両手から放つ。

回避し切れずにワカメの右腕が抉られ血がしぶく、失血のダメージが重なる前に傷口を凍結させ止血。

サザエは足の裏から吹き出す風圧を上げて飛翔、縦方向の動きで大きく回避。

ワカメが甚六を射程に捉え、その左腕から凍結を開始する。

甚六はすかさず凍結した己の皮膚に能力を発動、低温が筋肉に届く前に組織を破壊し剥離、そのまま迫るワカメへの攻撃に転じる。

ワカメ「そんな、自分の腕をっ!!」

サザエ「離れて、ワカメッ!!」

そのタイミングで颶風を纏ったサザエが頭上から落下。

大気組成の中で最も重い元素であるキセノンが集約され、螺旋に渦巻き甚六の脳天を穿たんと放たれる。

迎撃の隙にワカメが一端離脱、おざなりに放たれた機械的ストレスの牙がその横を未練がましく削り取る。

54 : 2020/10/03(土) 13:07:48.999 ID:+dHMxRzWd
サザエ「はあああああああああああああああああああっ!!!」

甚六「こんな、ものでええええええええええええええええっ!!!」

破壊と破壊の拮抗が起きた。

キセノンの螺旋がその先端を噛み砕かれながらもじりじりと甚六に迫ってゆく。

巻き込まれた周囲の大気の摩擦により静電気が蓄積され、放電。

火花を散らす鍔迫り合いのように、希ガスの大槍と破壊の爪の激突が雷光に彩られる。

永遠のような五秒間が終わりを告げる。

敗れたのは、サザエの方だった。

風が止まり、余剰の威力が空を割き、サザエの太腿や肩口に傷が奔り鮮血が舞う。

ワカメ「お姉ちゃんっ!!!」

甚六「あはははははははははははっ!!!!」

甚六「分かったか、これが僕の痛みだ、これが僕の苦しみだ!!!」

甚六「どんな暴力でも僕の苦痛を超えることはできない、全てを噛み砕いて嚥下してやる!!」

55 : 2020/10/03(土) 13:08:19.925 ID:+dHMxRzWd
甚六が血塗れの左腕を演劇染みた動作で振って、宙に赤十字を描く。

それは地に堕ちつつあるサザエへの祈り、勝利を確信した故の余裕。

最期に呪いの祝詞を届けようと、一層大きく息を吸い込み、そこで気づいた。

サザエ「ええ、あなたの負けよ、甚六さん」

息ができない。

いやそうではない、呼吸を試みる程に苦しくなる。

人体は脆い、ほんの些細な環境の変化にその肉体は耐えられない。

酸素濃度6%以下の空気を吸引することで肺胞のガス交換機能は逆転し、血中から貴重な酸素を吐き出す。

ただの一息で脳への酸素供給が断たれ、死に導かれる。

甚六「バカ……な……」

甚六の体が崩れ落ちる。

それを見届けて、サザエは風に抱かれてふわりと大地を踏みしめた。

流血は見た目こそ痛ましいが、大事には至っていない。

56 : 2020/10/03(土) 13:08:51.975 ID:+dHMxRzWd
ワカメ「やったわね、お姉ちゃん」

サザエ「ええ、大変だったわよ」

サザエ「できるかぎり近づいて射程範囲を搾らないと、ここら一帯の住人をみんな犠牲にしちゃうんだもの」

扱い辛くて嫌になっちゃう、とサザエが不敵に笑う。

傷口の凍結による止血を行いながら、その愚痴にワカメは微笑みで応えた。

57 : 2020/10/03(土) 13:09:23.355 ID:+dHMxRzWd
【伊佐坂邸】

波平「伊佐坂先生、考え直してはくれんかね?」

伊佐坂「命乞いですか?みっともないですよ」

伊佐坂「仮にも『不毛なる鏖殺』と綽名された貴男のそんな姿、見たくはなかったですね」

波平「いいや、そうじゃない」

波平「儂は、あんたを殺したくなどないんじゃ」

一瞬、時間が硬直する。

天使が通ったとでも表現されそうなその弾指頃、

静寂を破ったのは、伊佐坂の嗤う声だった。

伊佐坂「く……くはは……くははははははははははははははははは!!」

伊佐坂「ふざけないで下さいよ磯野さん、ブラフのつもりですか!!?」

伊佐坂「こんな絶体絶命の状態で、あなたに何ができると言うんですかッ!!」

59 : 2020/10/03(土) 13:09:58.678 ID:+dHMxRzWd
激昂した伊佐坂の台詞と共に、ページから溢れだす光量が爆発的に増大した。

まるで頭が吹き飛んだ給水栓のように文字が噴出し、その量に比例して軒先全体が噛み砕かれてゆく。

             <Notes from Underground>
伊佐坂「どうですか、私の  『文豪を責苛む重圧』  を喰らった感想は?」

      <Biblio>
伊佐坂「この『能力』の本質は情報熱力学に基づき、情報をエネルギーに、そのエネルギーを更に質量に変換するものです」

伊佐坂「本というものはね、読み手によって千差万別にその表情を変えるものなのですよ」

伊佐坂「同じ本を読んでも、真の意味で全く同じ感想を持つ人間は存在しない……」

伊佐坂「分かりますか波平さん、私の書いた本の読者の数だけ、この本が持つ情報量は増えてゆく」

伊佐坂「多くの人間の解釈に基づいて生み出された情報が変換されたエネルギーを純粋な質量に変換してやれば……」

ただでさえ伊佐坂を包み込むほどの量だった文字列が、一層その密度を上げる。

今までの破壊は小手調べに過ぎなかったと言うかのように、その影響下にあるあらゆる対象が蹂躙されてゆく。

波平の老体がそれに耐えられず弾け飛ぶ光景を思わず幻視しそうになるほどに。

60 : 2020/10/03(土) 13:10:37.739 ID:+dHMxRzWd
しかし、その中にあって波平の顔に浮かぶのは、死への恐怖では無く、悲しみであった。

波平「……忠告はしましたぞ」

波平がぼそりと呟く。

憤怒の形相のまま伊佐坂はそれを無視し、文字列の結界を広げてゆく。

狂ったように嗤いながら、目を見開き、陥没してゆく地面の中心にいる波平を平伏させようと攻撃を重ねてゆく。

―――だが。

波平「よっこらせ」

伊佐坂「なっ……!!」

まるで夕飯に呼ばれて腰を持ち上げるように、ごく自然な動きで、

伊佐坂が放ち続ける重圧の中、それを全く気にも留めぬように波平が立ち上がる。

波平「まさかこれを伊佐坂先生に対して言う羽目になるとはの」

波平「この……ばっかもおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!!」

61 : 2020/10/03(土) 13:11:06.690 ID:oBqzoFPy0
熱い
62 : 2020/10/03(土) 13:11:12.450 ID:xOfZ6OhY0
読み仮名ズレすぎ
63 : 2020/10/03(土) 13:11:15.950 ID:+dHMxRzWd
その声は伊佐坂の放つ重圧を掻き消し、それだけでは止まらない。

衝撃波によって伊佐坂の腕が千切れ飛び、体は家屋の残骸へと叩き付けられた。

本を掴んだままの腕が、ぱらぱらとページを風に捲られながら、傾いた屋根まで飛ぶ。

纏っていた文字列は輝きを失い、風に舞って空気に融けるように消滅してゆく。

屋根瓦を肉が打つ湿った音が響いた後、思い出したかのように伊佐坂が吐血した。

理解できない。

明らかに波平の『能力』による反撃だと言うのに、その正体が全く分からない。

伊佐坂「がはっ!!」

伊佐坂「磯野さん……一体何を……?」

波平「得心いかない様子じゃな、無理もなかろう」

悠々と立ち上がった波平の姿からは微塵もダメージを受けた様子が見られない。

一撃で満身創痍となった伊佐坂とは対照的な姿であった。

64 : 2020/10/03(土) 13:11:31.294 ID:0iDhxd8da
パンツ脱いでんだからはやく
65 : 2020/10/03(土) 13:11:49.797 ID:+dHMxRzWd
伊佐坂「ははは……私の生涯をかけて紡いできた物語が」

   <Notes from Underground>
伊佐坂「  『文豪を責苛む重圧』  の情報圧が……まるで通じていない」

伊佐坂「一体、今まで私は何の為に……」

波平「伊佐坂先生や、もういいじゃろ」

波平「いったいあんた、誰の命令でこんなくだらないことをしたんじゃ」

その言葉を聞いた伊佐坂は憐れむような、蔑むような

そして最終的には諦めるような目で、こう答えた。

66 : 2020/10/03(土) 13:12:23.890 ID:+dHMxRzWd
伊佐坂「そう、あなたは何も理解していないんだ」

伊佐坂「あなたの息子が、カツオくんが、どういう存在なのかを」

波平「カツオがなんじゃというんじゃ!?」

伊佐坂「ふっ……『あの方』に与えられた私の役目は所詮時間稼ぎ」

伊佐坂「もう、思い残すこともあるまいて」

波平「いかんッ!!」

波平「早まるな、伊佐坂先生ーーーッ!!」

伊佐坂「すまない……おかるさん」

波平の叫びも空しく

伊佐坂邸は轟音と共に爆発した。

67 : 2020/10/03(土) 13:12:54.863 ID:+dHMxRzWd
【町内会からの帰り道】

かる「おフネちゃん、そろそろ諦めてちょうだいな」

かる「私も楽しくてこんなことしているわけじゃあないのよ」

フネ「そうね……」

フネ「いつまでも、おかるちゃんの相手はしていられないものね」

不敵に笑っていたかるが怪訝の表情を浮かべる。

一体なんのつもりかと問いただそうと口を開いたその時

――――光の柱が降り注いだ。

68 : 2020/10/03(土) 13:13:27.008 ID:+dHMxRzWd
かる「なっ!?」

否、降り注いだのではない。

始点と終点を逆だと勘違いするほどに空高くまで、光が立ち登っているのだ。

その光の中、陥没したアスファルトから、フネの体が何事もなかったかのように立ち上がる。

かる「嘘……私の『能力』は!?」

     <The Idiot>
かる「『仮初の九泉の姿見』の効果がなんで消えるのよ!!」

フネ「簡単なことさ」

光の中から歩み出たフネが応える。

切り捨てるような言葉とは裏腹に、その声音は悲しみに染まっていた。

逆光によって表情を窺い知ることができなかったのは、二人にとっての救いだったかも知れない。

69 : 2020/10/03(土) 13:13:46.366 ID:xOfZ6OhY0
おかるさんだれ
オリキャラ?
72 : 2020/10/03(土) 13:15:21.646 ID:+dHMxRzWd
>>69 伊佐坂先生の嫁

フネ「私の知ってるおかるちゃんなら、最初から全力をだしたはずよ」

フネ「つまり全力を出しても、最初は私を地面に埋めるだけで精いっぱいだった」

かる「う…ううう……」

フネ「つまり、重力子そのものではなく、重力子を発するものを支配する能力ということさね」

フネ「そんな芸当を私に感知させずに行おうとすれば、自ずと手段は限られる」

フネ「おかるちゃんが支配しているのは通常の物質とはパリティが反転した物質」

フネ「鏡像パートナーと重力子によってのみ相互作用する存在」

フネ「つまりシャドーマター……あるいは鏡像物質さ」

答え合わせというよりは断言。

突きつけられた回答に対し、かるは追い詰められた獣の呻り声しか出せない。

それは幾百の言葉を連ねるよりも雄弁な肯定であった。

70 : 2020/10/03(土) 13:13:56.394 ID:+dHMxRzWd
フネ「おかるちゃんの能力がそのまま『重力』を支配する能力」

フネ「つまり重力子を隷属する能力なら、とっくの昔に私は死んでるわよ」

フネ「重力波によって素粒子レベルで分解するなり」

フネ「マイクロブラックホールの事象の地平面で存在情報を食い荒らすなり、方法はいくらでもあるさ」

フネ「でも、おかるちゃんはそれをしなかった」

フネ「いや、できなかった」

かる「う……」

正鵠を射たフネの指摘に、かるの声が詰まる。

その様子が、フネの推論の正しさを自ずと証明していた。

71 : 2020/10/03(土) 13:14:07.569 ID:XOusjA/uM
タラオ事故死
73 : 2020/10/03(土) 13:15:55.038 ID:+dHMxRzWd
フネ「ネタが割れば後は簡単、それを対消滅させてやればいい」

フネ「私の『幽世に揺蕩う曳船』には、それができる」

かる「うううううううううううううううう!!!」

先ほどの光は、対消滅によって生じたエネルギーの発露。

従えるべき鏡像物質を失った今のかるは無能力者も同然、フネに抗うことさえできない。

それを理解した上で言葉による説得を続けられることが、どれほどの屈辱か。

フネ「勝負はついた、さあおかるちゃん」

かる「いや、ダメよ、ぜったいにダメ!!」

フネ「……どうしてそんなこと言うの?」

フネ「無駄に命を落とす必要なんてないでしょ?」

かる「無駄じゃないっ!!」

顔を紅潮させ、眦に涙を溜めて反論するかる。

その姿はさながら聞き分けのない童女のようであった。

74 : 2020/10/03(土) 13:16:26.602 ID:+dHMxRzWd
かる「そう……無駄じゃない」

かる「私の役目はあなたの足止め」

かる「それはもう十分果たしたわ」

フネ「おかるちゃん!!」

フネの悲愴な叫び声と共に、町の一角から爆音が轟いた。

伊佐坂邸の方角からであった。

かる「ふふふ……私ももう、疲れちゃった」

かる「貴男……私もすぐにそちらにいきます」

フネ「おかるちゃん……だめえ!!」

フネの制止する声など聞こえないように、かるはあたり一帯を巻き込んで自爆した。

75 : 2020/10/03(土) 13:16:43.488 ID:06Q7e7mE0
長いでーす!
76 : 2020/10/03(土) 13:16:58.204 ID:+dHMxRzWd
【公園】

勝利の余韻を味わっていたイクラは、今になってやっと気が付いた。

死体が、燃え尽きない。

炭化どころか分子が原子まで分解され、その原子さえも電子と陽子に分離するほどの高温のハズなのだ。

        <Biblio>     <The Naked Sun>
それでも自分の『能力』は、『供犠焼べ斎戒為す聖壇』は絶対のものだと信じていた。

過信していた。

だから反応が遅れた。

タラヲ「あはっ、やっと捕まえたデース」

イクラ「なッ!!」

77 : 2020/10/03(土) 13:16:58.811 ID:+bTbEQn40
なんだこれ…
78 : 2020/10/03(土) 13:17:29.542 ID:+dHMxRzWd
がしりと、骨まで炭になったタラヲの手に、その胸を貫くイクラの腕が掴まれた。

熱源に直接触れた手が蒸発し、プラズマ化してはその質量を減らしてゆく。

それでもイクラは恐怖していた。

動くワケのない手が動き、焼け潰れたハズの声帯が声を奏でたのだ。

茹で上がり白濁したタラヲの眼球がグルリと回った。

視線が、合った。

気づいた時には、叫んでいた。

79 : 2020/10/03(土) 13:17:47.298 ID:lgH0+TgS0
タラヲまで勝つのか…
80 : 2020/10/03(土) 13:18:08.756 ID:+dHMxRzWd
イクラ「タラヲオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

絶叫しながら、腕を引き抜こうとする。

今にも脆く崩壊しそうな黒い躰は、しかしその腕を一向に離そうとしない。

半ば狂乱しながら、今度こそはと一層強く全身に力を込めたその時。

――――ピシリ。

その音は幻聴だったのかも知れない。

本来ならあり得ないことだからだ。

イクラの全身が罅割れ、傷口からプラズマの体液が吹き荒れる。

体液と言っても、圧力から解放され外気に曝されたプラズマ生命組織は、瞬時に格子構造が破壊されただのプラズマに戻ってしまう。

次いで喉から迫り上がる吐き気、そのまま吐血。

ワケが分からないまま、自分の体が崩壊している事実だけはどこか冷静に理解していて、

その事実が意識の表層の混乱を一層際立たせた。

81 : 2020/10/03(土) 13:18:41.899 ID:+dHMxRzWd
タラヲ「イクラちゃん、もしかしてボクの『能力』がただの電磁力操作なんて本気で思ってたんデスか?」

崩壊を続けるイクラの躰とは逆に、炭化していたタラヲの肉体は、映像の逆再生のように復活を遂げてゆく。

タラヲ「まあ、ボクもこうして死にかけたおかげで本当の『能力』を理解できたんデスけどねぇ」

傷を抉りながら、再生したタラヲの手ががイクラの胸に沈んでゆく。

再び指が沸騰して蒸発、しかしその先から蒸気が元あった場所へと戻ってゆく。

破壊と再生を繰り返しながら、少しずつ指先がイクラの体内へと進んでゆく。

タラヲ「イクラちゃん、君の体である超々高密度プラズマを維持する皮膚に相当するのが高密度の磁力線デス」

タラヲ「ボクのチカラでその磁力線を中和させてもらったデスぅ」

イクラ「だがっ、それだけではこの状況は説明できん!!」

イクラ「貴様は確かに死んだはずだ、今でも確かに心臓を貫いているのだぞ!?」

タラヲ「……イクラちゃん、『電気』ってなんデスか?」

イクラ「はあっ!?」

82 : 2020/10/03(土) 13:19:11.998 ID:+dHMxRzWd
突然の問いに呆けた声で応えるイクラ。

その声に対して、出来の悪い生徒を諭す教師のようにタラヲは続けた。

タラヲ「電気が流れる……電流とは、すなわち電荷の移動、電子が動くことデース」

           <The Lights in the Sky Are Stars>
タラヲ「そう、我が     『僭主に阿る雷霆』     の本質は電子の隷属だ」

イクラ「タラヲ、お前……」

タラヲ「イクラ、貴様の『能力』は肉体を強結合プラズマに置換し再組織化した上でその維持を図る、そこまでだ」

タラヲ「高温によって周囲の物質を蒸発させることは『能力』の副産物に過ぎない」

タラヲ「ならば、蒸発した物質の電子を隷属し、結合を再生させることなど雑作も無いことよ」

イクラ「バカな、そんなことが……」

タラヲ「生命活動もただの化学反応に過ぎない」

タラヲ「心臓が止まって死ぬのは、血流が止まることで酸素と栄養の供給が停止し、細胞が活動を維持できなくなるからだ」

タラヲ「だが、我が『僭主に阿る雷霆』により電子を隷属すれば細胞内、ミトコンドリアマトリクスのプロトン勾配を直接変化させることなど容易い」

タラヲ「貴様に心臓を貫かれ、肺腑を抉られ血が沸こうと、今の我の生命活動には何の支障もないのだよ」

83 : 2020/10/03(土) 13:19:46.575 ID:+dHMxRzWd
指先が、イクラのプラズマの心臓に届いた。

破壊と再生を繰り返す手で、脈動するプラズマの塊を握る。

タラヲ「イクラ……君は心臓を失って果たして生きていられるかな?」

イクラ「タラヲ……」

イクラの顔が恐怖に陰る、そのプラズマの輝きさえ暗く見えた。

イクラ「俺たち……友達だよな?」

タラヲ「――――残念だよイクラ、さよならだ」

ぐちゃり、と湿った音がした。

最期の悲鳴はくぐもった小さなものだった。

イクラからプラズマの輝きが消え去り、ただの幼児の肉体へと戻る。

その瞳は、絶望と諦観に染まっていた。

84 : 2020/10/03(土) 13:20:01.352 ID:OQOY96bO0
ここが神スレですか?
85 : 2020/10/03(土) 13:20:22.705 ID:+dHMxRzWd
タラヲ「ふう、なかなか強かったデスぅ」

タラヲ「でもイクラちゃん程度はボクの敵じゃなかったデース!」

浮江「そうね、タラちゃんは強いわよね」

タラヲ「ッ!?」

浮江「だからそのチカラ、私に貸してちょうだい?」

タラヲ「あ、あああ……!!」

             <Crime and Punishment>
浮江「――――私の 『酷薄な久遠の微睡み』 の世界へようこそ、タラちゃん」

タラヲの瞳から光が失せ、ガクリと膝をつく。

夜風にプラズマの残り香が舞い散り、破壊の限りを尽くされ更地のようになった公園に暗闇が戻った時、すでにタラヲと浮江は姿を消していた。

86 : 2020/10/03(土) 13:21:00.319 ID:+dHMxRzWd
【商店街からの帰り道】

サザエ「甚六さん……なんでこんなことを」

ワカメ「私たちが襲われたのならお兄ちゃんたちも危ないかもしれないわ」

サザエ「そうねワカメ、早く家に帰りましょう」

タイ子「いえ、それはダメなんですよサザエさん」

ワカメ「――――お姉ちゃん、危ない!!」

サザエの背後、地面から唐突に湧き出すように出現したタイ子。

ワカメはいち早く反応し、その身を守ろうとサザエを突き飛ばした。

サザエは驚愕のまま地面へと倒れ伏し、一瞬で意識を再び切り替えて体勢を整えながら振り返る。

そこにはタイ子の左腕に胸を貫かれたワカメの姿があった。

タイ子「あらあら、先に厄介なサザエさんの方を始末するつもりだったのに」

サザエ「た、タイ子さん……?」

サザエ「どうして、どうしてあなたがワカメをッ!?」

87 : 2020/10/03(土) 13:21:37.985 ID:+dHMxRzWd
ワカメ「お姉ちゃん……私、もうダメみたい」

ワカメ「お兄ちゃんたちのこと、あとはよろしくね」

口から血の筋を流して、それだけをサザエに告げる。

瀕死の、既に手遅れで死を待つだけのワカメが、タイ子の腕をつかむ。

次の瞬間、ワカメの肉体ごとタイ子は氷の棺に封印されていた。

サザエ「まさか……こんなことになるなんて」

タイ子「ええ、まさかワカメちゃんが最期にこんなことができるなんて、思いもしませんでしたよ」

再び背後に現れた、二人目のタイ子。

その台詞が終わらぬうちに、サザエの手刀が真空の刃を纏って一閃。

新たなタイ子の首を切断し宙に舞わせる。

88 : 2020/10/03(土) 13:22:10.069 ID:+dHMxRzWd
タイ子「あらあら、おかげで貴重な分体がまた一つ無駄になってしまいました」

空中に舞い続ける首が、言葉を続ける。

その異様な光景にサザエの生理的嫌悪感が刺激され鳥肌が立つ。

首の無いタイ子の肉体が動いた。

重力に従って崩れ落ちるのではなく、明確な意思に従って。

反応が遅れた。

致命的な手遅れだった。

顎を貫く衝撃に、サザエの意識は一瞬で刈り取られた。

89 : 2020/10/03(土) 13:22:37.567 ID:+Doxp9Yfd
面白い
90 : 2020/10/03(土) 13:22:49.129 ID:+dHMxRzWd
【とある裏路地】

     <The Left Hand of Darkness>
マスオの   『凋落と禍殃の腕』   の拳が宙を穿つ。

アナゴとの距離は未だ15m以上、打撃が届く距離では無い。

――――だが。

アナゴ「やっと本気になったようだね、フグ田くん」

その左手が纏う闇色が、飛んだ。

与えられた初速から減速するどころか、逆に加速して、音の壁を悠々と貫く。

アナゴがステップを踏み、更に首を傾げ、宙を駆けた拳は遥か横を過ぎ去るが、その衝撃波に髪の毛を数本持って行かれる。

アナゴの厚い唇が笑みに歪む。

アナゴ「そうだ、それでいい」

外れた攻撃がビルの外壁に直撃し、コンクリートの壁を陥没させる。

轟音、舞い散る粉塵、明滅する電灯。

くつくつと笑いながら、アナゴの手がついにポケットから抜き放たれた。

91 : 2020/10/03(土) 13:23:28.849 ID:+dHMxRzWd
それと同時に再び不可視の斬撃が奔る。

アスファルトが熱したナイフで切り取られるバターのように滑らかに割けた、

と思った次の瞬間には既に破壊が到達していた。

しかしすでにそこにはマスオは居ない。

アナゴのモーションから先読みで飛翔し、攻撃を避けたマスオが夜色の左腕を振りかぶる。

その動作だけで、空中で爆発的な加速を得たマスオの体が刹那でアナゴに肉薄、

握りしめた左拳を解放すると共に、爆発が起きた。

アナゴの姿が砕け、そして空気に融けるように消えた。

爆炎が消え、視界が開ける。

その視線の先には、マスオが詰めた距離と同じ距離を離して、無傷のアナゴが佇んでいた。

               <Biblio>
マスオ「……それが君の『能力』、というワケかい?」

アナゴ「ほお、アレだけの接触でもう解ったとでもいうのかい君は」

マスオの眼鏡が月光を反射し白く染まる。

説明を促すようなアナゴの姿に、マスオが訥々と語り始める。

92 : 2020/10/03(土) 13:24:12.283 ID:+dHMxRzWd
マスオ「最初の攻撃はカマイタチ、それに先ほどの幻影」

マスオ「つまり真空や空気の屈折率の変化を利用できる、大気操作系の能力」

自分の妻の能力を思い出し、だからこそ断言する。

マスオ「――――ではないのだろう?」

アナゴ「ああ、そうだよ」

マスオ「素直に認めるんだね」

アナゴ「別に、わざわざ偽装したワケでもないからねえ」

マスオ「……大気密度の変調による幻影はない、ボクの攻撃で大気が攪拌されていたからね」

マスオ「蜃気楼を生み出せるような安定した空気の層をあのとき作ることはできなかった」

マスオ「では他の方法で光を曲げたことになる」

マスオ「それができるのは、光子そのものを直接操作する能力、または」

マスオ「――――超質量による、重力レンズ効果だ」

93 : 2020/10/03(土) 13:24:25.511 ID:zxCu88JH0
イクラの口調だけ違和感
バブぅ ハーイですすめてくれ
94 : 2020/10/03(土) 13:24:56.227 ID:+dHMxRzWd
マスオ「そう考えればカマイタチの方も説明がつく」

マスオ「超質量によって周囲の空気を引寄せ真空を生み出したんだ」

マスオ「つまり、君の能力は……マイクロブラックホールの生成と操作だ」

アナゴ「ご名答」

パチパチと、拍手の音が白々しく響く。

アナゴ「では私も推理してみようか、君のその左腕の正体を」

マスオ「……聞こうか」

アナゴ「まず、殴りつけた拳の威力が飛んできた」

アナゴ「そして空気を殴りつけることで空中で加速」

アナゴ「更には拳から爆発を引き起こす」

アナゴ「まるでその左腕自体が巨大なエネルギーの塊のようだが」

アナゴ「――――違うのだろう?」

95 : 2020/10/03(土) 13:24:56.439 ID:FfSYlhKQK
結構古いんだなこれ

コメント

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